築60年の家を売却することにした話
追い詰められた状況
IT業をやりながら、知人が営む飲食店の手伝いもしていた。しかし、その飲食店の経営が不振で、私のIT業に割ける時間も、自分のお金も、どんどん無くなっていった。
肝心のIT業のほうも注文が減ってきていて、そもそも随分▽会社のお金を引き▽出してしまっているし、計算すると法人税すら払えない状況になっていた。
飲食店のほうは、営業をやめてからもう1年近く経つというのに、オーナーがうだうだ言って撤退できずにいる。オーナーは歩くのが困難になっていて、買い物などを私が色々立て替えてきた。本来、私が立て替える義理などないのだが、そうこうしているうちに、借入が増えていき、支払いが苦しくなってきた。
売れるものといえば家しかない
売れるものといっても、自分にはもう家ぐらいしかないと思った。
そんなある日、家の査定のチラシがふと目に留まった。築60年の一軒家なので、少しはお金になるかもしれない。査定を依頼してみることにした。
不動産屋が土地などを調べて、1週間ほどで査定額を出してきた。15年ほど前に中古で900万円で買い、諸費用込みで総額1000万円ほど払ったのだが、出てきた査定額は250万円だった。
セットバックという壁
理由を聞くと、建てた人が土地いっぱいに家を建ててしまっていて、いわゆる「セットバック」が必要になるとのことだった。道路の幅を確保するために、建物を少し下がらせないといけないらしい。
それを踏まえて建ぺい率を考慮すると、今と同じ広さの家を建て直すだけのスペースが確保できない。つまり、建て替えができない土地ということで、評価額が大きく下がってしまうのだという。
家賃相場から考え直してみる
とはいえ、一般的にこのあたりに住む場合の家賃相場を考えると、月8万円前後だろう。8万円×12ヶ月で年間100万円弱、10年住めば1000万円になる計算だ。
さすがにそれを踏まえると、250万円というのはあまりに安すぎるのではないかと思い、不動産屋にお願いして、さらにその先のお客さんを当たってもらうことにした。
すると、450万円なら買うという人が現れた。
この金額であれば、一旦、会社に引き出した分を返すことができる。会社から少しずつ給料としてもらって引き出すか、会社をうまく解散させれば、出金することができる。借入分も返済できる計算になる。
売却を決断する
リフォームに100万円ほどかかるかもしれないことを考えると、450万円というのは妥当な範囲なのかもしれない。
ちょうど資金が必要な状況でもあったので、この家を売却することを決断した。
仮に付近の家賃相場で賃貸していた場合、1000万超にはなるので、これと比較すれば安かったということで自分を納得させた。
これに先んじて飲食店のほうも退去の連絡をしていた。店舗の退去と、自宅の退去を同時期に進めることになってしまった。大変なことになってしまった。
次の住まい探し
家を売ると決めたからには、次に住む場所も探さないといけない。お世話になった不動産屋に、次に住む賃貸マンションも探してもらうことにした。住みたいエリアがあったので、その近辺と希望の家賃を伝えて探してもらった。
すると、家賃2.9万円(管理費4000円込み)と比較的安く、市内のほぼどこへでも電車で行けるほど交通の便がよく、周囲にスーパーやホームセンターもある、異様に便利な場所が見つかった。
何の因果かわからないが退去する飲食店からそんなに遠くない場所だった。だから多少土地勘もあった。
しかも、大学時代の同級生の実家にも近い。同級生が帰省してきたときは、一緒に3次会に行けるなと、二人で話していた。
めちゃくちゃ狭い部屋ではあったが、明るい部屋だったので、その部屋に決めた。
引っ越しに向けた断捨離
部屋が決まったら、今度は引っ越しの準備だ。ある程度は断捨離して大物も処分していたとはいえ、つるばら4鉢をはじめとする色々な植木があったり、ちょうど同時進行で飲食店のほうの退去も進めていて、色々な調理器具もあったりして、何を新居に持っていくべきか、あらためて選別する必要があった。
植木の選別
持っていく植木として、まず外せなかったのは、気に入っていたピンクのバラ「ナエマ」。香りがとてもいいので、これは絶対に持っていくと決めていた。
もう一つは、家を買ったときに記念に買ったクリスマスホリー。思い出も詰まっているし、ちょうど実もついていた。
この2鉢はどちらも2m近くにまで育っていて、「これ持っていけるのか?」と一瞬怯んだが、コンパクトカーに無理やり押し込んで、なんとか移動させた。
それと、秋ごろに咲くアジサイのような花、カラミンサ、ハンカチの木。これらは鉢が小さかったので、移動は簡単だった。
つるバラも、中には持っていきたいものがあったのだが、新居のスペースを考えると到底もてあましてしまうので、結局は処分することにした。
アジサイも同様で、ちょうど咲いていたものは切って部屋に飾り、植木自体は処分した。
そして、ミニバラ数鉢と白いアジサイは、さすがに全部は持っていけず、かといって捨てるのも忍びなかったので、飲食店オーナーの玄関先に置いてきた。
本の選別
家には本も沢山あった。売れそうな本はネットオフに送り、その他は、料理の本やコンピュータ関係の技術書、まだ読んでいないコピーライティングの本だけを残して、残りは思い切って処分した。
そうすると本棚もすっかり空いてしまったので、本棚自体も処分することにした。
キッチン用品の選別
キッチン用品も、当然ながら全部は持っていけない。残したのは、冷蔵庫、単機能レンジ、オーブントースター、ル・クルーゼの鉄鍋とケトル、ラゴスティーナの圧力鍋と片手鍋、鉄製のフライパン、MAITRE FRANCAISというメーカーのシリコンスチーマー、T-FALの電気ケトル、貝印のおろし金やピーラー、その他おたまや箸、スプーン・フォーク、よく使う食器など。これらを残して、後は処分した。
包丁も同様で、昔、関で買った包丁、飲食店で使っていて使いやすかった貝印のペティナイフ、細目のパン切り包丁を残し、機能のダブっているものは処分した。
電気ポット、炊飯器、精米機、たこ焼き器なども処分した。鍋でご飯が炊けるようになったので、炊飯器すら手放してしまった。結局、気に入っていて常用しているものだけを残す形になった。
PC用品・工具類の整理
PC用品もかなり整理した。細々としたPCのパーツやCD-ROMなど、色々と取ってあったものは、使っていないものをまとめて処分した。
工具類も、使っていないものやネジ類など、かなりの量を廃棄した。
身の回りのものの整理
扇風機も2台あったが、これも処分した。
布団も、妹が泊まりに来たときに1回だけ使ったものを残し、何年も使ってきたものは処分した。
服も、思い出があってなかなか捨てられずにいたものがあったが、変色してしまっていたりして、もう置いておく意味もないと思い、廃棄した。
卒業アルバムや古い写真、高校生のときにもらった年賀状、新入社員のころの写真や異動のときにもらった寄せ書きなども、すべて処分した。見返すこともなければ、連絡を取ることもないので。
書類関係も大量にあった。実家の確定申告を手伝っていた関係で、その過去分の書類がたまっていたし、自分の事業の分も同様にたまっていた。実家の分の書類は実家に送り返し、自分の分は法律で定められた必要年数分だけ残して、年度ごとに茶封筒にまとめ直して圧縮した。残りは廃棄した。
そのように整理すると、それらを収めていたスチール棚も空いてしまった。そういえばこの棚も、四半世紀近く使ってきたものだったが、これも廃棄した。
仕事用に使っていた、飲食店オーナーからもらったカリモクのテーブルもあった。これも年代物で、売れば多少は値段がつくのかもしれないと思ったが、新居に置くスペースもなさそうだし、椅子のほうもだいぶボロボロになってきていたので、申し訳ないとは思いつつ、処分することにした。
一方、丸いちゃぶ台は持っていくことにした。これは家を買ったときに購入したもので、サントリーの樽を再利用して作られている。気に入っていたものでもあるし、次に住むところではベッドを置くつもりもなく、椅子に座るよりも床の上で生活するほうに慣れているので、何かしらテーブルは必要だった。それなら、これを持っていこうと思った。
本当は、卒業アルバムや確定申告の書類などには個人情報が含まれているので、シュレッダーにかけるなり、それなりの処置をしてから捨てるべきなのだろう。ただ、面倒だし、もう時間も経っていて、今さら気にしても意味がないと思い、そのまま普通ゴミとして捨ててしまった。
それにしても、一度捨て始めると、要・不要の判断が楽になり、どんどん捨てられるものだなと思った。
賃貸ならではの安心
賃貸に住むことには、こんな利点もあった。私はもう還暦を前にして独身であり、孤独死ということも当然ありえる。そんな万が一のときのために、「スムービング」というサービスに加入させられた。亡くなった後の後処理をしてくれるサービスらしい。これはこれで、ちょっと安心材料になった。
それと、補修やらメンテナンスやらを自分で考える必要がないというのも、賃貸の良いところだと思う。戸建てだと、どうしても多少の補修は必要になってくるだろうし、そういう煩わしさからは解放される。
マンションを買う場合だと、修繕積立金などで毎月いくらか払い続けないといけないし、住んでいる限りはそれがずっと続く。マンションを買う理由が「将来売り抜けるため」とかでないのであれば、正直、私にはよくわからない。
引っ越してみてわかったこと
実際に引っ越し先に荷物を入れてみると、間取りの使いづらいことといったらない。一体何を考えて設計したのだろうかと思ってしまうほどだった。
収納スペースはほぼなく、居住空間のど真ん中あたりにバス・トイレの入口があり、キッチンには料理をするスペースがほとんどない。
とはいえ、家があっさり売れてしまったので、次に住むところの目星などじっくりつけている余裕もなかった。仕方のないことではある。
持ってきたものをどう収納できるのか、最初は途方に暮れた。とりあえず、申し訳程度についている収納に目をつけた。ここはほぼ収納として機能しないデッドスペースだったので、会社の確定申告関係の書類など、ほとんど見返すことはないが保管しておかなければならないものを入れることにした。ギリギリA4サイズの紙が入るかどうかというスペースだったが、意外と収まってくれた。
スーツなどをかけるスペースも、これまた申し訳程度についていたので、とりあえずそこにかけることにした。その下にも少し空間があったので、冬物の毛布などを押し込んでみたところ、これも意外と収まった。
服はそれほど持っていないので、3段ボックスが2つぐらいあれば収まるだろうとは考えていた。チェストのようなものはスペースを取ってしまうので、むき出しの収納にすることにした。島忠というホームセンターで2段ボックスを2つ買ってきたところ、余裕で収まった。本類もそこに収まった。
ベッドはスペースを取るので置きたくなかったのだが、もし収納しきれなかったら、ベッドを買ってその下に収納する、という手もあるかなと考えていた。結果的には、そんな必要もなかった。
キッチン用品の収納にも頭を悩ませたが、ホームセンターで、キャスター付きで上が天板になっており、下に3段ほど棚がついているものを見つけた。これなら食器や鍋を収納できるうえ、上は作業スペースとしても使える。これは便利だと思い、即決で購入を決めた。
そんな感じで、なんとかほぼ全部収まり、無事に生活できるようになった。
後になって思うこと
その後、周辺の中古物件の相場をあらためて見てみると、やはり1000万円近く出さないと買えない物件が多く、「もっと高く売れたのではないか、安く売ってしまったのかな」という後悔の気持ちが湧いてくる。
その一方で、とにかくお金が必要だったから仕方なかったか、という気分にもなる。どちらが正解だったのかは、今後何年かしてわかるのだろう。
家を買うのには時間がかかるが、売るのは一瞬だな、と感じた。考えてみればそりゃそうだ。15年ローンを組んでいたのだが、15年かけてコツコツ払ってきたというのに、売るほうは1ヶ月もかからずに買い手が現れ売却できたのだから。
とはいえ、これを機に、色々とたまっていたものが整理できたのはよかった。なんだかスッキリした気分だ。
飲食店の退去も終わり、家の売却も、引っ越しも、片付けも一通り終わった。ようやく一段落したので、こうして書いている。
なお、飲食店の退去については、それはそれでまた大変な話だったので、機会をあらためて書こうと思う。