かす汁好きぃ研究所

困難な原状回復

撤退できない店

知人が営んでいた飲食店は、ずっと赤字だった。オーナーは体が思うように動かなくなっていて、家賃は出してもらっていたものの、仕入れや電気・ガス・水道代などは私が立て替えることが多く、自分のお金もどんどん減っていった。

買い物、準備、店舗営業、片付け。毎日この時間に追われて、自分の仕事の時間が削られ、請けられる仕事も減り、収入もさらに減っていった。そんなわけで、もう手伝うのはやめさせてもらうことにした。

ただ、オーナー自身はまだ続けたいらしく、店舗を退去しようと言っても「まだ置いといて」と言うばかりだった。お金が無くなれば気づくだろうと思い、残高が少なくなっていることを何度も伝え続けたが、それでも1年ほど店舗を借りっぱなしにしてしまい、家賃だけで100万円以上の出費になった。

そうこうしているうちに、預かっていた銀行カードの残高が、あと2ヶ月分の支払いしかできない状態になっていた。さすがにこのままでは結局自分に振りかかってくると思い、連帯保証人にも連絡して話し合い、私が退去の連絡をした。退去時には2ヶ月分の家賃を払った。つまり、2ヶ月で綺麗にして出ていく、ということだ。

始めるときは資金もやる気もあるが、やめるときは資金もやる気もない。そして、ここからが大変すぎた。

一人での片付け

店舗の裏に植えていた木、植木の処分、大型の冷蔵庫、テーブル、食器類の処分。窓枠の塗り直し。外壁4面のうち2面は塗装が必要で、1面には施工された細工を除去する必要があった。内装も、貼られたものやフローリングを本来は元に戻す必要があったが、これらは回復不能で、貸主も元の状態がわからない様子だったので、そこは伏せておくことにした。

外壁の原状回復やゴミ処理は連帯保証人が手伝うと言っていたが、途中で「手を引く」と投げ出してしまい、結局まったく手伝ってもらえなかった。オーナーも体調が悪く、結局、私一人で対応することになった。

まず、店舗内に残しておきたい食器や小物類をオーナー宅に持ち帰った。テーブルやショーケースは本来廃棄してもよかったのだが、オーナーは今後どこかでまたやりたいらしく、どうも持っておきたい様子だった。説得するのも面倒だったので、そのまま持ち帰った。

植木との戦い

次は植木類だ。木を一本植えていて、4〜5mぐらいまで成長していた。上はのこぎりで切っていった。根元はアスファルトだったので撤去は簡単だろうと思っていたが、植木というのは上と同じくらい下も成長しているというのは本当だった。アスファルトを貫通して太い根が伸びていて、「これはマズいな」と思った。

チェンソーを買ってきて根を切り取った。深夜に土を掘っている、完全に怪しい人になっていた。完全に取り切ることはできなかったので、土から出ない程度まで取り、除草剤をまいてインスタントアスファルトで埋めた。

他にも小さな花壇でぶどうを植えていたので、それも撤去した。店の前の小さな花壇も土を取って一箇所にまとめた。これらのゴミは業者に処理してもらい、30万円ほどかかったが、これは自分では到底できなかっただろう。

外壁の塗り直し

外壁は塗装していたので、元の色に塗り直す必要があった。業者に頼むと何十万円かかるし、スケジュールも合わなかったので、DIYで補修することにした。

まず軽く塗料をはがし、ホームセンターで買ってきた下地材を塗る。下地材を塗っておくと、跡があっても浮き出てこないらしい。店舗の看板を外した跡が目立って残っていたので、その対策として下地処理をした。その上に水性塗料を塗る。水性でも、塗って10年ほど色あせていなかった実績があったので問題ないはずだった。

これを壁面全面に塗った。10m×5mぐらいあっただろうか。高いところまで塗らないといけないので大変だった。目立たないよう、夜遅くから深夜にかけて数日かけて塗った。

建物の反対側も、以前私が言われて塗ったものだった。「ずいぶん暇だったんだな」と悲しい気持ちになった。塗らなければよかったと思いつつ、同じくらいの面積をまた塗らないといけない。危険だし時間もかかる。平屋ほぼ1件分を塗ったことになる。

残り1面、変な施工がされていた面は、業者に聞いても綺麗に取ることができず、取るだけで100万円近くかかる工事だった。可能な範囲で回復させて、このまま鍵だけ郵送で送り返して退去しようと決めていた。訴えられても自分は契約とは関係ないし、後はオーナーと連帯保証人に対応してもらえばいい、とあきらめることにした。

内装の補修と家主との話し合い

内装では、まず窓枠を塗っていた部分が一部薄くなっていたので、指摘されるだろうと思い、元に近い色に塗り直した。窓4つ分。

例の、変な施工がされていた1面には、さらに変な色が上から塗られていた。白で塗り直そうとしていたところに、不動産屋が様子を見にきた。ずっと赤字で、もう用意できるお金は無いと説明した。「家主がどう言うかによる」ということで、話してもらえることになり、少し気が楽になった。後日、家主と話し合いの場が持たれることになった。

ガラス窓に描かれていた絵も消していった。メラミンスポンジに水をつけてこするとちゃんと消えたが、一日がかりだった。壁紙はそのままでいいということだったので助かった。

床は黒ずんでいる部分もあったが、業務用の大容量洗剤を撒いて磨くと元のとおりになった。この床は本来貼ったものを剥がす必要があったが、綺麗にしてごまかした。

入口の扉には、シートのようなものが貼られていて、本来はこれを剥がす必要があったが、施工したところに聞いても「無理です」と言われた。本当にめちゃくちゃな施工をしているなと思った。とりあえず傷のあった部分を補修することにした。塗料を塗っただけではガタガタが目立ってしまうので、パテで埋めてサンドペーパーで平らにし、近い色に塗った。といっても全然近い色が無く、何色か買って違和感が少なくなるように塗った。かなり大変だった。

エアコンと換気扇も掃除した。残すエアコンは天井のもの一台だけだったが、汚かったので掃除し、換気扇口にたまっていたほこりも洗った。キッチンの換気扇上は、とりあえずテープで塞いだが翌日見ると取れていたので補修した。貼れる薄いステンレス板を買ってきて貼り、その上から壁紙を貼って目立たないようにした。

虫もたくさんいたので、不要だとは思いつつバルサンを焚いておいた。

話し合いの結果

そこまでして家主との話し合いに臨んだ。こちらの事情を伝え、もうせいぜい何十万円かしか用意できず、これ以上は回復させられないことをお伝えした。結果、金銭で解決できることになった。大変だった。

原状回復義務について思うこと

通常、賃貸物件を退去するときには原状回復義務がある。しかし、契約書をよく読みもしない、説明も聞きもしない、あるいは契約書自体がわかりづらく書かれていたり、十分な説明がされなかったりすることもある。そう考えると、退去時に原状回復ができない、というケースも実際にはあるのではないかと思う。

最悪、裁判にしてもらって、オーナーや連帯保証人の財産を差し押さえてもらえばいい、とも考えていた。とはいえ、いちおうは現状で可能な範囲をこちらから提示し、それを家主に飲んでもらうことで、なんとか胴体着陸することができたのだと思う。

これでようやく、飲食店に関する出費も時間の浪費もなくなり、心から安堵した。

しかし、自分はこの件でほぼ2ヶ月を失い、同時に家も売ることになってしまった。辛い経験だったが、おかげで色々と整理することができたし、新しい場所でこじんまりと暮らすのも悪くないものだな、と今は思っている。

片付けをしているとき、お客さんに何人か声をかけられ、お礼を言われた。それだけで、少し救われた気分になった。

#challenge